「ダービー馬のオーナーになることは、一国の宰相になるよりも難しい」
イギリスの宰相だったウィンストン・チャーチルが言ったとされる言葉だ。
今ではチャーチルが言ったのではなく創作だと判明しているが、チャーチルが言ったとして広まったのには、真実が含まれているからであろう。
それだけダービーを勝つことは難しく、名誉である、ということだ。
「天才」と呼ばれた父福永洋一は、若くして怪我により競馬界を去らなくてはいけなかったこともあり、日本ダービーを勝つことはできなかった。福永祐一自身もずっと日本ダービーを勝てなかった。
19回目の挑戦にして初制覇。
「福永家の悲願」
そんな言葉が出るのも、ダービーを勝つのがいかに難しく、名誉であるかを物語っている。
各主催ごとにダービーがあり、その関係者は、各ダービーを勝つのを夢見る。そして、各地のダービーを勝つのは、それぞれに名誉なことである。
ケンタッキー、エプソム、東京優駿、などなど。
的場文男という騎手がいる。数々の重賞を勝ち、61歳の今年もこれまで55勝を挙げている、生きる伝説と言っていい騎手である。
通算勝利数は日本歴代2位となる7151勝。しかし、その7151勝に、東京ダービーは1つも含まれていない。
これまで東京ダービーに挑戦すること、36回。2着は9回。連対率にすると、2割5分と、高い。しかし、勝率は0割。
とにかく、東京ダービーだけは勝てない。
「ダービーは宿題だね。俺の人生の宿題」
的場文男は言ったことがある。
人生の宿題。あまりにも深い言葉である。
人生をかけて取り組まなければならない宿題。それが、東京ダービー。
そして、だからこそ勝つのを夢見るのである。
そんな夢の舞台・東京ダービーが今年も行われる。
もちろん的場文男は今年も挑戦する。今年の相棒は、クリスタルシルバー。
ゴールドジュニアーを勝った時は、「あれ、なんだか勝ってしまったぞ」という印象だったが、改めて成績をみると、新馬戦はリコーワルサーの3着(しかも鞍上千田で)。前走とタイムを3秒以上縮めたのは、競馬センスのあらわれだったのかもしれない。
雲取賞は外が不利な馬場で外枠ながら差し込んできての3着。
そこは、乗り替わる的場文男の手腕に託すしかない。
ゴールドジュニアーで時計を3秒縮めたんだ。不可能ではないだろう。
思えば、母マルヨシロワインは、的場文男がデビュー戦に乗り、的場文男で初勝利を挙げた馬だ。ならば、的場文男の東京ダービー初勝利は、その息子によってもたらされてもいいのではないか。
今年こそ、的場文男悲願の東京ダービー制覇。そんな夢の瞬間が観られるのを期待する。
その他の馬についても。
羽田盃からの上昇度でいうと、モジアナフレイバーになろう。早くから東京ダービーを意識したローテ。前走羽田盃は負けたものの、早めに上がっていくと厳しい馬場で早めに動き、4コーナーで先頭に並んだ脚は、能力を感じさせた。結果的に4着と、大敗はしていない。初めて強い馬と戦った経験は、むしろ本番で活きる。
ハセノパイロもいい馬だ。羽田盃で残り200mくらいから盛り返してきた脚は、目を見張るものがあった。タフなレースになればなるほどいいタイプ。あとは、どこで着火させるか。
リコーワルサーも楽しみ。将来性を考えると、この中でも1、2の存在。羽田盃は低評価に反発しての2着。先行できる脚もあるし、しぶとく伸びる脚もある。
重賞3連勝中のヤマノファイト。なるほど、馬体からも、Robertoの粘りこみさが表現されている印象を受ける。ただ、東京ダービーはこれまでのレースとは違う。楽なレースにはならないだろう。そのときに、200mの距離延長、それも、スタートから直線を400m使う大井の2000mへの距離延長がどう影響するか。
◎的場文男とクリスタルシルバー
○モジアナフレイバー
▲ハセノパイロ
△リコーワルサー
☆ヤマノファイト
雨の東京。